建設業の下請代金法

一、 はじめに

もとより建設業の下請代金法という法律が存在するわけではない。これは建設業法に規定する法条の内、建設業の下請負人を保護する条項を抜き出して再構成したものである。

建設業法には建設業者を取り締まり監督して建設物の適正な形成を目的とする部分、監督官庁として建設業者を監督する部分、建設業に特有な下請保護を目的とする部分など、多くの目的規定が一つの法典の中にとりこまれている。しかも契約の部分に即して言えば、通常の顧客との契約をも含めて規制する一般条項、さらには特定建設業者との下請の関係を規定する部分、特に後者は建設業法施行後下請代金法にあわせて追加立法されているために条文が挿入条項とされていたりする。

また、監督業法としての規定の部分はきわめて技術的な規定などもあり、これらが政令や省令に委任されていたりと行政法特有のわかりにくさを持っている。そのために建設業法は請負代金を請求する、またはされる立場のそれぞれの関係者にはきわめてわかりにくい構造となっている。

その条文をそのまま羅列して解説したのではわかりづらい。そこで下請代金に関わるところを摘出し、建設業の下請代金法を再編成するつもりで条文を分解し並び替えをした。

いわゆる下請代金法によって保護される役務提供から建設業法による請負契約は明文で除外されている。これと併せて前記のように建設業法の中に、下請保護条項が規定され、業法の中に散財することとなった。

 

二、下請代金支払い遅延防止法(下請代金法)との比較

1, 下請代金法の概要

独占禁止法の下位法

行政指導の根拠法

親事業者と下請事業者の契約を修正する強行法規

① 資本金区分により親事業者と下請事業者を分ける


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②、取引類型により法の適用をする。

*民法の規定

民法は13種の典型的契約類型を例示として表示 (民法 債権編)

① 権利移転を目的 売買、贈与、交換

② 物の利用を目的 賃貸借、使用貸借、消費貸借

③ 人の利用(役務・サービス)を目的とする

④その他

委任、請負、雇用(労働)

寄託(消費寄託)

和解(示談)、組合、終身定期金

*ただし、契約自由の原則によって、これ以外でも自由に契約はできる。

下請法による種類
具体例
民法上の法形式
製造委託
部品の製造
請負、売買
修理委託
修理の下請け
請負
情報成果物作成委託
映画テレビなどの作成
請負
役務提供委託(*ただし建設業をのぞく)
運送、ソフト開発
請負委任寄託

 


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※公正取引委員会パンフレット「 知るほどなるほど下請法」より転載
公正取引委員会パンフレット「 知るほどなるほど下請法」

三、建設業の実態

国土交通省総合政策局建設業課発表資料からアレンジ

平成21年度下請引取等実態調査の結果について


 

下請かけこみ寺相談取扱状況(速報)

中小企業庁 事業環境部 取引課発表資料

平成22年8月30日 (単位:件)

取扱状況
請代金法関係
建設業
運送業(代金法除く)
その他(※)
合計
07月最終週 249 407 71 632 1359
(07月30日)
06月最終週 178 296 50 423 947
(06月25日)
05月最終週 115 199 28 252 594
(05月28日)
04月最終週 65 119 17
162
363
(04月30日)
平成21年度 949 1466 248
2479
5142
平成20年度 894 914 214
1814
3836

(注):本相談件数は、累計値
(※):「その他」には、下請代金法が適用されない中小企業同士のトラブルの他、「下請かけこみ寺」や法令等に関する一般的な質問等も含まれる。

本発表資料のお問い合わせ先:

中小企業庁 事業環境部 取引課

電 話:03-3501-1511(内線5291~7)

下請かけこみ寺についてはこちらをご覧ください。

 

四、建設業の下請保護条項の体系

1、当事者

特定建設業者概念の創設

 

元請負人、下請負人

*一定規模以上の建設については特定建設業者でないと請負できない。

2、規制行為

*別紙「下請け代金法、建設業法、独占禁止法下請け保護該当条項比較表」参照

■ 全ての当事者に規制される行為: 書面作成、低価格受注の禁止

■ 元請負人に要求される行為

■ 特定建設業者が元請負人の場合に加重される行為

①、書面の作成(建設業法19条)

(1)請負契約の内容(建設業法19条①項)

(2)追加・変更契約(建設業法19条②項)

②、低価格請負契約の禁止(建設業法19条の3項)

※指値発注

③、不当減額の禁止(認定基準7)

※赤伝処理

※やり直し工事

④、不当な使用資材等の購入強制の禁止(建設業法19条の4)

⑤、建設工事の見積もり(建設業法20条)

※下請負人の意見聴取(建設業法24条の2)

⑥ 下請代金支払期日の約定(建設業法24条の5)

⑦、検査と支払期日(建設業法24条の4)

※竣工検査と瑕疵担保責任(民法634)

⑧、引取(建設業法24条の4 ②項)

⑨、代金支払義務(建設業法24条の5 ④項前段)

支払留保、支払留保特約は有効か

⑩、特別遅延利息の支払義務(建設業法24条の5 ④項 後段)

建設業法 第二十四条の五 4項(後段)

 当該特定建設業者がその支払をしなかつたときは、当該特定建設業者は、下請負人に対して、前条第二項の申出の日から起算して五十日を経過した日から当該下請代金の支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該未払金額に国土交通省令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。

( 法第二十四条の五第四項 の率)

規則第十四条  法第二十四条の五第四項 の国土交通省令で定める率は、年十四・六パーセントとする

⑪、前払金の支払配慮義務(建設業法24条の3 ②項)

⑫ 請負代金受領後の下請代金支払いの特別法定義務(建設業法24条の3 ①項)

建設業法 第二十四条の三

元請負人は、請負代金の出来形部分に対する支払又は工事完成後における支払を受けたときは、当該支払の対象となつた建設工事を施工した下請負人に対して、当該元請負人が支払を受けた金額の出来形に対する割合及び当該下請負人が施工した出来形部分に相応する下請代金を、当該支払を受けた日から一月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならない。

※約定の有無にかかわらない。この期日から14.6%の支払い義務が発生する。

⑬、割引困難手形の交付の禁止(建設業法24条の5)

⑭ 、支給材料の早期決済の禁止(同認定基準7)

 

五、行政庁による監督など

①、元請特定建設業者の指導、是正、通報義務

1、下請負人に対する特定建設業者の指導等

2、下請負人に対する特定建設業者の指導義務(建設業法24条の6 ①項)

3、下請負人に対する特定建設業者の是正義務(建設業法24条の6 ②項)

4、特定建設業者の大臣等への通報義務(建設業法24条の6 ③項)

②、監督など

1、建設業者の経営に関する事項の審査等(建設業法27条の23)

2、指示処分(建設業法28条)

第二十八条

国土交通大臣又は都道府県知事は、その許可を受けた建設業者が次の各号のいずれかに該当する場合又はこの法律の規定(第十九条の三、第十九条の四及び第二十四条の三から第二十四条の五までを除き、(中略))、(中略)に違反した場合においては、当該建設業者に対して、必要な指示をすることができる。特定建設業者が第四十一条第二項又は第三項の規定による勧告に従わない場合において必要があると認めるときも、同様とする。

指示処分の適用除外項目と公正取引委員会への措置請求

 不公正な取引方法の類型に属する後記違反の事実は監督官庁の指示処分の対象からは除外される。

 この法律の規定違反のうち第十九条の三、第十九条の四及び第二十四条の三から第二十四条の五までを除きとあり、それらの条項は以下の通りである。

第十九条の三、不当に低い請負代金の禁止

第十九条の四、不当な使用資材の購入強制の禁止

第二十四条の三、受領した出来形部分に対する下請代金の支払い

第二十四条の四、検査及び引き渡し

第二十四条の五、特定建設業者の下請代金の支払期日、割引困難手形の交付、特別の遅延利息の支払い

これらの条項違反は監督官庁の指示処分の対象からのぞかれてる。これらの項目の行政処分は公正取引委員会の権限であり、同委員会の専権の権限を侵すことからのぞかれたものであろう。純理論的にはその通りであるが下請負人保護規定の最も肝心な項目である。

 ただし、上記違反事実は指示処分という行政処分の対象からは除外されるが、監督官庁としての行政指導の対象からはのぞかれるものではない。

3、監督処分の公告等(建設業法29条の5)

4、指示処分違反の営業停止(建設業28法③項) 、不正事実の申告(建設業法30条)

5、報復処置の禁止(同基準10)

6、立入調査権(建設業法31条)

7、中小企業庁長官の立入調査権(建設業法42条の2)

8、帳簿備付義務(建設業法40条の3)

③、勧告など行政指導

1、建設業を営む者への指導、助言及び勧告(建設業法41条①項)

建設業法 第四十一条

国土交通大臣又は都道府県知事は、建設業を営む者(中略)に対して、建設工事の適正な施工を確保し、又は建設業の健全な発達を図るために必要な指導、助言及び勧告を行うことができる。

※建設業の健全な発展を図るために必要な指導、助言、勧告であるから、下請代金の未払いなども当然含まれる。

2、下請賃金の立替払い勧告(建設業法41条②項)

建設業法第四十一条

 特定建設業者が発注者から直接請け負つた建設工事の全部又は一部を施工している他の建設業を営む者が、当該建設工事の施工のために使用している労働者に対する賃金の支払を遅滞した場合において、必要があると認めるときは、当該特定建設業者の許可をした国土交通大臣又は都道府県知事は、当該特定建設業者に対して、支払を遅滞した賃金のうち当該建設工事における労働の対価として適正と認められる賃金相当額を立替払することその他の適切な措置を勧告することができる。

※賃金相当額を立替払することその他の適切な措置を勧告

※孫請けの労働者の未払い賃金の立替払いを求める。

3、下請代金など未払いの損害賠償金の立替払い勧告(建設業法41条③項)

建設業法 第四十一条

3  特定建設業者が発注者から直接請け負つた建設工事の全部又は一部を施工している他の建設業を営む者が、当該建設工事の施工に関し他人に損害を加えた場合において、必要があると認めるときは、当該特定建設業者の許可をした国土交通大臣又は都道府県知事は、当該特定建設業者に対して、当該他人が受けた損害につき、適正と認められる金額を立替払することその他の適切な措置を講ずることを勧告することができる。

※当該他人が受けた損害につき、適正と認められる金額を立替払することその他の適切な措置を勧告

他人が受けた損害のなかには、解釈上はこうした下請代金の支払いなどにとどまらず、工事周辺の商店街などとの取引も含まれると説かてれている。

建設業法解説11版449頁

* 本項では国土交通大臣または都道府県知事の勧告を規定しているが、勧告にしたがわない場合において必要と認めるときはには国土交通大臣または都道府県知事は必要な指示処分をなすことができる。(法二十八条一項本文後段)

したがって、これらは本条項上は勧告というような行政指導においてにとどまっているが、勧告にしたがわない場合には行政処分をなして建設業者に命令が出来るわけであるから本条にいう勧告は相当強力な行政指導力を有する。

このことは未払い賃金の立替払いと同様である。

駆け込みホットライン-建設業法違反通報窓口-

「駆け込みホットラインに電話をすると、各地方整備局の「建築業法令遵守推進本部」につながります。

「駆け込みホットライン」に寄せられた情報のうち、法令違法の疑いがある建設業者には、必要に応じ立入検査等を実施し、違反行為があれば監督処分等により厳正に対応します。

平成21年度「建築業法令遵守推進本部」の活動結果について


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④、公正取引委員会

1、措置請求(建設業法42条、42条の2 ③)

2、公正取引委員会への直接申立(独占禁止法2条⑨5号、19条、45条)

3、相互通知(建設業法42条②項)

⑤、罰則(建設業法55条)

 

六、下請代金法との比較

1、国土交通省はそれなりに大臣認可の特定建設業者の指導、監督をしているが都道府県は知事認可の特定建設業者に対する指導監督を全くといって良いほどしていない。

2、国土交通省の駆け込みホットラインも各整備局におかれているだけで遠方の業者は保護の求めようがない。

3、都道府県認可の特定建設業者のなかにはマナーの良くない業者も少なくなく、都道府県職員が直接指導するのを忌避する。腰がひけている。

他方、知事認可の特定建設業者には国土交通省の直接の指導監督が及ばない。

4、それならば、せめて書面作成義務に罰則があれば下請業者は刑事告発もできるが規定されていないので下請代金法と同じ条項がおかれていても実効性が伴わない。

5,中小企業庁のなしているような下請代金法のトップセミナーやガイドラインの説明会がなされていない。

つまり予算がないのでなされておらず、この問題への啓蒙活動が弱い。